変化が求められる医療・福祉体制の連携を
情報通信技術の力で推進し
安心できる未来を目指してまいります
地域医療福祉情報連携協議会 会長
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 院長
松村 泰志

メッセージ
現在の日本の医療システムは、戦後の昭和の高度経済成長時代に作られたものがベースとなっていますが、平成、令和と時代が進むにつれ、人口構造が変わり、高度経済成長が望めなくなる等、社会構造が大きく変化してきています。優れた治療法が開発され、かつては直ぐに亡くなっていたよう病気であっても治療により延命できる事例が多くなりました。一方で、長期に渡り医療の継続が必要となり、医療に対する経済的、人的負担は増大する傾向にあります。高齢化が進む中、多くの人が何等かの慢性疾患を抱えており、その上で新たな病気を発症するなど、医療はより複雑化しています。治療後、自宅に帰ることができず、リハビリ、介護を要することになる人は多くおられます。核家族化は進み、若い世代は夫婦ともに仕事に就き、介護する余力がある家庭は稀です。このように、私達の社会は医療福祉において多くの課題があるのですが、これらを解決し、安心して過ごせる地域の医療福祉体制の構築が切に求められています。
医療福祉のニーズが高まっても、それに比例して資金も人手もかけられない状況がある中で、ICTの活用が解決の糸口として期待されています。昭和の時代では、全ての記録は紙、フィルムを媒体としていましたが、現在は、デジタル化されICTで管理されるようになりました。デジタル化することで物理媒体の管理コストを下げる効果がありますが、もう一つの重要な特性として、情報を共有しやすくすることがあります。特に、地域で各医療福祉施設が協力し合うためには、患者さんに関する情報を関係する施設で共有できる仕組みが必要です。しかし、現状では、各施設内でのデジタル化は進んだものの、地域での情報共有基盤の構築は、まだ道半ばの状況です。
医療情報のデジタル化により、新たなトレンドも起こり始めています。医療技術の開発には、その技術の評価が必要です。これまで、ランダム化比較試験が唯一の方法のように言われてきましたが、蓄積される医療データを使った評価方法が編み出され、Real World Dataとして脚光を浴びるようになりました。また、医療データを大量に得られることで、ゲノム医療、AIの医療応用を推進する動きも始まっています。更には、国民がスマートフォンを持つ時代となり、個人が自分の医療データを持ち歩くPersonal Health Record(PHR)を実現させている国もあります。こうした技術進歩に伴い、Patient Centricity(患者中心)、Patent Engagement(患者参画)の概念が提唱され、医療の新しい形に向けて、世界が動き出しています。
こうした世界の潮流に日本はやや遅れをとっています。日本では、地域によっては先進的な取り組みがされているものの、日本全体の動きにはなってはいません。コロナ禍にあって、イスラエルでは、EHRを用いてワクチン接種によるコロナ感染防止効果を、いち早く世界に発信していました。日本では、FAXで感染情報を報告し、それを集計するだけで多大な労力と時間を要していました。 日本では、この遅れを取り戻すべく、医療DX令和ビジョン2030が提唱され、国としてより強力に推進する方針が掲げられました。これまで取り組んできた地域医療福祉情報連携基盤は、Real World Dataを生み出す基盤でもあり、個人が医療に参画するためのものでもあるとして再定義し、国家事業として取り組むべき新たな局面に差し掛かっています。こうした大きな事業は、トップダウンの施策と、ボトムアップによる活動が嚙み合って初めて実現させることができます。 是非、この課題に関心がある人に本協議会に参加して頂き、皆さんと、日本のこれからの地域医療福祉情報連携について情報を共有し、議論し、協力し合って、これを推進していきたいと思います。ご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。